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★健康冒険記



「このー!魔物め!この勇者ビアンコット様が相手だー、覚悟しろ!」
琥珀色の髪の少年が、魔物に向かって駆けていく。
その右手に握られたのはなにやら長いもの・・・
ん?これは・・・
「ビアンコット様っ、それは剣でなく長ネギです!」
そう、何を思ったのか、少年は剣でなくネギを振り回していた。
それを見たナース姿の女性は半ば呆れたような表情でツッコミを入れる。
「そうよ、ビア。そんなものじゃ魔物は倒せないわよ」
と、ナースの傍らにいた老人も口を開いた。
そして布に包まれた長い棒状のものを少年に投げ渡す。
お、今度こそ剣や棒といった武器になるものだろうか?
「サンキュー!さあ、魔物、今度こそ倒してやるからな!」
包みを開けて取り出したものは・・・

・・・

・・・・・・あのー、
見間違いでなければその中身は・・・

ゴボウに見えるのですが・・・?

「ロゼークス様っ、ゴボウでも敵は倒せません!」
「何よ、マリーロッソ。ゴボウを馬鹿にしないでよ。ゴボウはねぇ、食物繊維が豊富なの。アンタの便秘も解消できるってことよ」
「それは関係ありません!というより、私便秘じゃありません!」
「おらおらー!ゴボウ祭りじゃー!!」
マリーロッソは、はぁ〜、と大きくため息をついた。


さて、彼ら3人は何者なのか、
また、この奇妙なパーティーはどうやって組んだのか。
それを今から説明しようと思う。

長らく平和が続いていたヴァイン国。
彼ら3人はこの国の出身であった。
そんな国に今、未曾有の危機が迫っていた。
魔王メタボリックシンドロームがこの国を拠点として、世界を支配しようと目論んでいたのである。
その世界の異変に最も早く気付いたのはヴァイン国王・グレイプであった。
ある日、彼の夢枕に立ったのは、この世の最高神・ヨドホルム。
そのお告げとは・・・

「グレイプよ・・・私の声が聞こえるか・・・?」
「・・・
・・・・・・
・・・聞こえません!」
「嘘つくでない!返事しているではないか!」
「・・・はいはい、聞こえています・・・って貴方様はもしやヨドホルム様!?
ああ、ご無礼をお許しください!」
「うむ・・・謝るならばよい・・・」
「どうか、どうか!
私がハゲていて実はヅラだということがバレませんように!
長年苦しんできた痔が治りますように!
国民に志村のバカ殿とよばれませんように!!」
「・・・願い事されても困るのだが
・・・てかヅラで痔でバカ殿だったのか・・・
まあそれはさておき・・・
お主に言わなくてはならないことがある。よーく聞け、ひとーつ・・・」
と、ヨドホルムは片手の指を一本立てて天を指し、もう一方の手でマイクを握っている。
ついでに言えば彼の髪型は、もみ上げはオレンジ色に染め、剃りあげた頭のてっぺんにある髪は緑に染めていた。
気のせいか、胸には「摩邪」と書いてある。
「この国は魔王に狙われている。
今はまだ平和を保っているが、いずれは魔王の手下がやってきてこの国を破壊する。
それを防ぎ、この国・・・いや世界を救う勇者を見つけ出すのだ!
わかったかコノヤロー!!」
マイクを地面に叩きつけてヨドホルムは去ろうとした。
それをグレイプは、もみ上げを引っ張り止めた。
「お待ちください!その勇者とはどのような者ですか!?」
「ああ・・・忘れていた。勇者の条件は・・・」

こそりと耳元でその条件を伝えた。
翌日、城に勇者候補の若者が集った。


「わぁー、見て見て!!すっごいキレイなシャンデリアー!
さすが貧民からも搾り取るように重い税を取って私腹を肥やした王族のやることは違うわねー!」
何気に失礼なことを言いながら城の中を見てまわっているのは、税を搾り取られている貧民の一人・ロゼークスである。
台詞だけ聞いていると、まるで若い娘のようだが・・・
実年齢、79歳。
しかも、女性ならばまだギリギリ許せる・・・かもしれないが、
男性である。
・・・簡単に言えば熟年オカマである。

「じいちゃん、勇者候補者はこっちだってさ。
あんまりきょろきょろするなよ。田舎者に見られるだろ?」
老人を窘めているのは、彼の孫・ビアンコットである。
しかし・・・きょろきょろするくらいならば、まだ可愛いものだ。
ビアンコットはさっきから金目のものを見つけては、自分の背負っている鞄にどんどん詰め込んでいる。
明らかに窃盗だ!
しかも鞄はランドセルときたものだ。

・・・こいつら、完璧に世の中ナメている!


彼ら二人が城に来たのは、勇者の資格を手に入れるためであった。
国王・グレイプが神から授かった勇者の条件。それは・・・

「名前が『ビ』から始まる人」

・・・かなりの人がヒットすると思うんですけどー?
まあ、とりあえず「ビ」アンコット、と条件は満たしていることなので、とりあえず行ってみるかー。
それで勇者の資格もらえたらラッキー!
という勢いでやって来たのである。
なんという、いいかげんさ・・・

「勇者候補者!前へ!これより国王陛下による審議が行われる!」
兵士の声がホールいっぱいに響く。
本来ならば、集まった候補者同士の話し声などで、兵士の声など届かない場所もあるくらいだと思われるのだが・・・

ホールに集まったのは、たった4人。

うち一人は条件を満たしていない、ただの物見遊山で付いてきたロゼークスなので、実質勇者候補者は3人。
世の中ナメている奴が多すぎだよ、この国。

「では、候補者たちよ。勇者としての意気込みを聞かせてもらおう」
国王は3人しかいない候補者に向かって、大音量マイクで話し始めた。
会場広く取りすぎだって・・・
まず口を開いたのは、女性の候補者。

「・・・台湾ニ帰ルー!」

片言で、しかしはっきりと彼女は答えた。
・・・って、いきなり「帰る」って、やる気ねぇー!!
「む・・・むう・・・ビビアン・スーよ、そなたは無理か・・・ではその隣の者」

「え!?貴方が国王だったんですか。これはトリビアだ!へぇ〜、へぇ〜、へぇ〜・・・」

彼は持参してきたボタンを20回押した。
押すたびに「へぇ〜」と鳴っている。
「・・・ビビる大木よ。そなたもか・・・で、では最後にお主!そこの若い者!」
疲れた表情で、最後の望みであるビアンコットに話しかけた。
「あ、オレですか?んー・・・
勇者ってカッコイイし、モテそうだし、助けた人から金もらえそうでいいかな〜って・・・」

国王は頭を抱えてしまった。


なんだかんだ言って一番やる気があった・・・ように見えたビアンコットが勇者として選ばれることになった。
もちろん国王も兵士たちも不満は抱え切れないほどあったが、神に背く訳にはいかないので、なんとか自分を納得させようとした。
「では、勇者ビアンコットよ。一人旅は辛いであろう。城から供をつけよう。場内にいる者から選べ。生死を共にする仲間だから慎重に選・・・」

「じゃあ、そこにいるナースの姉ちゃん」

・・・即答かよ。
「え・・・私・・・ですか?」
彼女は非常に驚いたようだった。
当然だよな・・・ただ兵士たちの健康診断に来ていただけなのに、突然勇者の供をしろというのだから。
「な・・・ナース・・・?何故・・・?」
国王はそれ以上に驚いた。それ以上に呆れていた。
屈強な戦士でも、頭脳明晰な魔道士でもなく、何故ナース?
誰もが謎に思うだろう。彼が彼女を選んだ理由は・・・

「眼鏡っ娘で、白衣の天使で、萌え系だから」

きっぱりと言い放ちやがった。
萌えだけのために選んだのか!?

もはや何も言うことがなくなり、追い出すような形で彼らを見送った。


魔王の城は燃え盛る火炎に包まれている。来るものを全て拒む城である。
まずはその火を消さなくてはならない、ということで、3人は水の精霊と契約して消火呪文を習得することを目的とした。
・・・ん?
3人・・・?

「じいちゃん、何で付いてくるんだ?城見物は終わっただろ!?」
「あら、付いていったらダメ?別にいいじゃない。それともアタシのことキ・ラ・イ?」
「いや、そんなこと無いって。むしろ・・・愛してるよ・・・」
「やだ、ビアたら〜。こんなところで・・・続きは今夜ベッドで・・・」
「・・・やめてください。怪しいですよ(というより気色悪い)」

とりあえずボケボケコンビに突っ込み役のナース・マリーロッソが加わったことで、少しは会話になってきてはいるが、それでもフォローしきれない溝はあった。

・・・やっと冒頭の戦闘シーンに繋がる訳だが、
魔物たちはあまりのバカさに付き合いきれずに勝手に去っていってくれるので、ある意味楽かもしれない。
実際、三人が旅に出てからは殆ど戦いらしい戦いをしていない。

そんな訳で、あっという間に水の精霊の神殿へ到着した。

「あのー・・・水の精霊様・・・いらっしゃいますか?」
そーっとマリーロッソは神殿の中を覗く。
「・・・『神殿』なだけに『死んでん』じゃねーか?」
なんて失礼な奴だ。

「おめー・・・ずず・・・しづれいな・・・ずず・・・やづだ・・・」
と、誰かさんも同じ意見らしいです。
・・・って誰!?
「わだす?・・・ずず・・・わだすは・・・水の・・・ずず・・・精霊」
・・・あ、聞こえていたみたいですね。
それにしてもすごい訛り。

「貴女が水の精霊様ですね!?呪文を教えていただきたくて参りました」
「あー・・・ええよ・・・ただす・・・頼みがあず・・・」
「私に出来ることならば何でもします!何をすれば良いのですか!?」
「かんだんだ・・・おめー・・・ずず・・・ナースだべ・・・?この筋肉注射を・・・すてくれればええ」
「筋肉注射をすれば良いのですね。お安い御用です!」
「ああ・・・わだすの鼻水・・・どめるのに・・・ずず効くだ・・・」
「では注射します。ちょっと痛いですが我慢してくださいねー」
お。初めてナースらしいことしている。

ぷすっ

ちゅー

「・・・あ」

・・・?

「間違って静脈に注射してしまいました・・・」
ええーーー!?
ヤバいよ!どうするんだー!?


「ありがど、大分よぐなっだだ」
筋肉注射静脈投与事件(何それ!?)の後、いろいろな手をうち、なんとか一命を取り留めた精霊は、大分鼻の調子もよくなったようで。
でもやはり訛っている。
「ごめんなさい・・・」
マリーロッソはかなり落ち込んでいる様子。
「まぁ、気にすんなって。オレの母さんも昔ナースやってたけど、入院患者にお茶と間違って検査用の尿出したことだってあるんだぜ。くよくよしないっ!」
いや、それも気にしろ!
それと先ほど妙に静かだったビアンコットとロゼークスは、ちゃっかり神殿の隅でお茶していたのだった。
お前らの旅だろ!?真面目に参加しろ!

「さで、呪文だっだな・・・今教えるがらな」

こうして、無事(?)3人は呪文を手に入れたのだった。
しかし、これが後々間違いだったことに気付くのは知る由もない・・・


「さあー、見えてきたぞ。ここがメタボリックシンドロームの城か・・・」
噂どおり城は燃えていた。そして近づくにつれて、城の周りには大量の魔物が蔓延っているのが分かった。
「ビアンコット様・・・どうします?この魔物・・・
今までのように呆れて帰ってくれるわけないですよ・・・」
「うーん・・・」
今回ばかりはバカ勇者も考えているのか!?

「・・・やっぱり今日はカレーにしようっと!」

・・・前言撤回!夕飯のメニュー考えてたんかい!やはりバカ勇者!
「いやーん!魔物がこっちに向かってくるー!ロゼークス怖〜い!」
こっちから見たら79歳のオカマも十分怖いよ。
そんなこと言っている間にも魔物との距離は縮まっていく。
「これは・・・戦うしかないですね・・・」
マリーロッソは護身用のメスを取り出し構えていた。

「あー、でもハンバーグも捨てがたい・・・」
バカ勇者はまだ夕飯のメニュー考えてるし・・・

魔物までの距離が20歩・・・

10歩・・・

5歩・・・

「助けてください!」
突然、魔物たちは3人の前に土下座してきた。
「・・・え?」

「・・・ということで、来るものを全て拒んでしまうほどの火力なので、
我々魔物たちも城に戻れなくて困っているんです」
「お願いします!城には腹を空かせた女房子供がいて・・・」
「は・・・はぁ・・・」
なんということだ・・・
城に勤めている魔物たちですら拒んでしまう城とは・・・
あの仕掛け作った奴はバカとしか言いようが無い。

「よし!ここで勇者様の出番だな!」
ビアンコットが立ち上がり城の方へ顔を向けた。

「怒り狂う炎を消す清き水よ・・・今我にその力を授けよ!」
「きゃー!ビアかっこいい〜!」
「・・・でもカンペ見ていますし
・・・しかも何回も噛んで、これテイク63ですし・・・」
こんな短い台詞を62回も噛むとは・・・ある意味才能!?

呪文を正確に唱え、効果が現れ始めた!


「はぁ〜・・・炎は消えましたが・・・なんだか城に入りたくないですね・・・」
魔法は正常に発動した。
ただし・・・

水は水でも鼻水の魔法が。

「わだす?やんだ〜わだすは『水の精霊』でなく『鼻水の精霊』だ。
それなのに鼻の調子が悪いなんでこっ恥ずかしくで言えねえべ。
調子良ぐしてぐれだお礼に最上級の鼻水魔法教えてやるべ」

と、精霊に教えてもらった魔法がこれである。
確かに、最上級なだけに効果は抜群だが、ちょっと汚い・・・

「でも・・・そんなこと言っていられませんね!いざ、魔王の城へ!」
と、やけくそになりながら城門を開けた。


「ふははは!よく来たな、勇者!」
・・・って、入り口しか開けていないのに、いきなり魔王登場!?
この城ワンルームか!?

「ふははははは!!まさか人間ごときがこの城までやってくるとはな!
ふははははははは!!しかも鼻水魔法か!
ふはははははははは!!!」

魔王は荒川選手のイナバウアー並みに体を反らせている。
「ふはははははははは!!
ふははは・・・
ははは・・・
ごふっごふぅ!!」
と、突然咳き込み始めた。

「わ・・・笑いすぎて・・・血圧が・・・く・・・苦しい・・・」
「あ・・・過換気症候群・・・」
魔王は苦しそうに悶えた。
「ゆ・・・勇者・・・見事・・・ぐふっ!」

・・・

「・・・私たち、何もしていないのに・・・しかもこれ、命には別状無いはずなのに・・・」
「やったーー!!魔王を倒したぞー!!」

これで良いのか!?

本当に良いのか!?

こんな冒険談恥ずかしくて後世には残せないので、秘密の歴史として今も闇に葬られている物語となった。

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